就業時間とは?賃金計算方法と会社の管理がずさんな場合の対処法

「就業時間が長いわりに、賃金が少ない。これって違法?」

一定時間以上勤務したら、一定以上割り増した賃金を支払わなければいけないなど、法律では、賃金の計算方法の最低限のルールが決められています。

それにもかかわらず、会社の賃金計算の管理がずさんなケースがあります。

  • 就業時間
  • 賃金の計算方法
  • 会社の賃金の計算方法がずさんな場合の対処法

について弁護士が解説します。

就業時間とは?

就業時間とは、就業規則等で定められた、業務を開始する時刻から終了する時刻までの時間のことです。
9時出社17時終業の会社なら、9時~17時までの8時間を就業時間と呼びます。

就業時間と労働時間の違いとは?

労働時間とは、就業時間から休憩時間を引いた時間です。
休憩時間は、1日の労働時間が6時間超え8時間以下の場合は45分以上、1日の労働時間が8時間を超える場合は1時間以上設ける必要があると決まっています(労働基準法第34条1項)。

労働時間の考え方は、

  • 「法定労働時間」
  • 「所定労働時間」
  • 「実労働時間」

で用いられています。

(1)法定労働時間

法定労働時間とは、労働基準法で定められている労働時間の原則的な上限時間です。
法定労働時間は、「原則として1日に8時間、1週間に40時間」と定められており、法定労働時間を超えた労働は原則として禁止されています。

労使間で所定の要件を満たした36協定(さぶろくきょうてい)を締結し届け出がなされている場合には、法定労働時間を超えることも許されています。しかしその場合も、基本的には労働時間の上限が法律上定められています。

また、変形労働制・フレックスタイム制などの特殊な労働形態で働いている場合には1日の労働時間が上記の上限を超えることもあるが、一定期間を平均して1週間あたりの労働時間が一定の労働時間を超えてはいけないなど、さまざまな規制があります。

(2)所定労働時間

所定労働時間とは、労働契約書や就業規則等であらかじめ定められた労働時間のことです。
簡単にいえば、「この時間は働く」と、約束した時間のことをいいます。
法定労働時間内であれば、所定労働時間が何時間でも違法とはなりません。
法定労働時間を超えた所定労働時間を設定しても、無効です。

(3)実労働時間

実労働時間とは、実際に働いた時間のことです。
9時~12時まで「3時間」働き、1時間の休憩を挟んで13時~17時まで「4時間」働き、19時まで「2時間」残業した場合、実労働時間は9時間です。

就業時間・労働時間と賃金の関係とは?

次に、働いた時間と賃金との関係を紹介します。

(1)労働時間は原則として1分単位で計算

労働時間は原則的に1分単位で計算しなければいけません。
常に端数を切り捨てるなどの処理や、1日ごとに四捨五入するような処理は労働基準法違反です。

ただし、割増賃金(≒残業代)の計算においては、1ヵ月の労働時間を合計して30分未満の端数が出た場合には切り捨て、30分以上の端数は1時間に切り上げて計算することは認められています(1988年3月14日基発第150号)。

(2)所定労働時間外の賃金

所定労働時間外に働いたときの賃金(残業代)はどのように計算すべきでしょうか。
まず、残業には、以下の種類があります。

  • 法内残業
  • 法定時間外労働
  • 深夜労働
  • 休日労働

これらの残業の種類ごとに、残業代の計算方法をご説明します。

※フレックスタイム制や裁量労働制など特殊な勤務形態の場合は、以下でご紹介する計算方法とは異なることがあります。また、管理監督者など一部の職種の方は、法律上、深夜割増賃金以外は支払いの対象外です。

参考:時間外労働・休日労働・深夜労働(Q&A)|厚生労働省 大阪労働局

(2-1)法内残業

法内残業とは、会社が定めた所定労働時間は超えるが、労働基準法で定められた法定労働時間内におさまる残業のことをいいます。

たとえば、所定労働時間が6時間で1時間残業した場合、労働時間は「6時間+1時間=7時間」です。
これは法定労働時間の8時間以内のため、残業した1時間は法内残業となります。

法内残業の残業代は、「法内残業の時間数(時間)×就業規則などで定める1時間あたりの単価」で求められます。
法律上、会社は「割り増した単価で支払う」義務がありません。
そのため、所定労働時間の1時間あたりの単価と同じ単価で法内残業の残業代を支払うことも認められています。

もっとも、会社が独自に「所定労働時間の1時間あたり単価よりも割増して支払う」と定めている場合には、会社のルールに則って、割り増した賃金が支払われます。
実際にどのようなルールになっているのかは就業規則や労働契約書を見て確認しましょう。

(2-2)法定時間外労働

法定時間外労働とは、法定労働時間を超える部分の残業のことをいいます(ただし後述の休日労働は除きます)。

たとえば、所定労働時間が7時間で2時間残業した場合、1時間が法定内残業、1時間が法定外残業となります。

法定時間外労働に対しては、通常の労働時間の賃金単価を25%以上割り増した賃金を支払わなければなりません。
計算式は次のとおりです。

法定時間外労働の時間数(時間)×就業規則などで定める1時間あたりの単価(円)×割増率1.25

なお、法定時間外労働が月60時間を超えた部分の割増率は50%となります。ただし、以下のような中小企業では、2023年4月以降の時間外労働にのみ適用されます。

  • 小売業:資本金5,000万円以下または常時使用する労働者が50人以下
  • サービス業:資本金5,000万円以下または常時使用する労働者が100人以下
  • 卸売業:資本金1億円以下または常時使用する労働者が100人以下
  • その他:資本金3億円以下または常時使用する労働者が300人以下

(2-3)深夜労働

22時から翌日午前5時までの間の労働は、深夜労働と呼ばれ、法律上、通常の労働時間の賃金単価を25%以上割増した賃金を支払わなければなりません。

法定時間外労働でかつ22時から翌朝5時までの間の労働だった場合は、25%+25%=50%以上賃金を割増する必要があります。
※法定時間外労働が月60時間を超える部分と、深夜労働が重複する部分は25%+50%=75%以上の割増率となります(ただし、中小企業では、2023年4月以降の時間外労働にのみ適用)。

なお、もともと所定の勤務時間帯(定時)が22時から翌朝5時の場合にも、深夜労働とみなされます。

(2-4)休日労働

休日労働とは、労働基準法が定める原則週1日の「法定休日」に行なわれた労働のことです。

休日労働(法定休日の労働に)ついては、通常の労働時間の賃金単価を35%以上割増した賃金を支払わなければなりません

22時から翌日午前5時までの間の労働でかつ休日労働だった場合は、25%+35%=60%以上、賃金を割増する必要があります。

なお、法定休日以外に就業規則や労働契約で定められた会社独自の休日である「法定外休日」があります。
法定外休日に労働しても休日労働にはなりません(法定外休日の労働は、労働時間によっては時間外労働の対象となります)。

就業時間・労働時間に関して起こり得るトラブル

なかには、ずさんな勤怠管理や、労働時間をごまかす会社もあり、働いた時間に見合う賃金を受け取れないケースも起こっています。

たとえば、次のようなトラブルがあります。

  • 所定労働時間外に業務を行っているが、その分の賃金を受け取っていない
  • 正しく打刻しているはずなのに、実際とは異なる労働時間で賃金が計算されている

では、このようなトラブルが起きたときはどうしたらいいでしょうか。

就業時間・労働時間の管理がずさんだと感じたときは?

「会社の労働時間管理がずさんな気がする」、「働いた分の給料がもらえていないようだ」だと感じたときの対処法について解説します。

(1)実労働時間を自分で計算してみる

まずは正しい実労働時間を自分で計算することから始めましょう。
毎回、タイムカードをコピーするまたは写真を撮って控えたり、始業・終業した時刻を1分単位で正確に毎日メモしたりして、会社が提示してくる実労働時間と実際の労働時間とのずれを確認しましょう。

(2)未払い賃金があれば会社に請求できる

実労働時間にずれがあり、その結果、自分が働いた分の賃金が十分に支払われていないとわかったら、その分の賃金を会社に請求できます。

ただし、消滅時効に注意しましょう。
消滅時効期間経過し、会社が消滅時効を使ってしまう(援用)と、消滅時効が成立し、賃金を会社に請求することができなくなります。

【消滅時効の期間】3年

残業代ごとに時効は進行します。そして、各残業代が本来支払われるべき日の翌日から、時効のカウントが始まります。
訴訟提起などをすると一時的に時効の進行を止めることができます。
また、「残業代を払え」といった判決の確定などにより時効のカウントダウンはリセットされます(確定判決やこれと同一の効力を有するものによって確定した権利の、新たな消滅時効の期間は10年となります)。

詳しくは、残業代請求の時効について解説したページも参考にしてみてください。

なお、賃金を請求する方法には、会社との交渉、労働審判、訴訟などがあります。

(3)未払い賃金の請求は弁護士に相談するのもおすすめ

就業規則の内容は、会社によって異なります。特にフレックスタイム制や裁量労働制などの変則的な勤務形態を取っている場合には、自分が受け取るべき賃金を正確に計算するのが難しいことも多いです。

そのため、未払い賃金の請求をしたい場合、弁護士に相談するのがおすすめです。
法的な知識がないと、有効な証拠がどれか判別がつかないこともあるため、どういった証拠を集めたらよいか、弁護士にアドバイスをしてもらうとよいでしょう。

また、弁護士に依頼すれば、弁護士が依頼者の立場を守りながら代理人として会社と交渉してくれます。
もし労働審判や訴訟になった場合にも、弁護士が代理人として対応可能です。

【まとめ】正しく賃金が支払われているかチェックしてみよう

就業時間は就業規則で定められた業務を開始する時刻から終了する時刻までの時間のことをいいます。
このうち、休憩時間を除いた時間を労働時間といいますが、会社は労働時間に応じて、きちんと賃金を支払わなければなりません。

法定労働時間を超える労働や、深夜労働、休日労働の場合には、会社は一定以上割り増した賃金を支払う義務があります。
そのため、まずはご自身の賃金がきちんと支払われているかチェックしてみましょう。

アディーレ法律事務所では、未払い残業代の請求をお取り扱いしております。
残業代請求でお悩みの方は、アディーレ法律事務所にご相談ください。

残業代請求に関するご相談は
何度でも無料!

0120-818-121

電話で無料相談する

【通話料無料】朝9時〜夜10時まで ⼟⽇祝⽇も受付中

Webから相談を申し込む
24時間受付中
この記事の監修弁護士
髙野 文幸
弁護士 髙野 文幸

弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。

  • 本記事の内容に関しては執筆時点の情報となります。